技術書典6で"DNSDNS Resolution"を頒布した。記録と、執筆の経緯、移籍の経緯について

タイトルの通りです。本の紹介は過去記事で書いている通りですが、ここでは執筆の経緯とか紹介できてないことを書こうと思います。

頒布実績

  • DNSDNS Resolution: 101/101 (物理完売)
  • バージョン管理 with Pijul: 12/12 (物理完売)
  • Computer Science Head-Start Guide 2018 Edition: 28部

DNSDNS Resolutionは無料入場開始して45分の13:45には完売していました。需要予測を完全に誤った感があるのですが、チャットログ掘り返して被チェック数の実績を見たらこんなの100部にするし150だと爆死まっしぐらって予想するのも仕方ないと思うんですよね:

  • 3/29: 25
  • 4/2の深夜に入稿
  • 4/3: 40
  • 4/6の午後に実物が到着
  • 4/7: 48
  • 4/9: 62
  • 4/12 17:00: 74
  • 4/13 16:57: 84
  • 4/14 9:16: 124
  • 4/15 14:00: 136

…いや無理でしょ!前日に被チェック数が跳ねがちっていうのは前回の経験から知っていましたが、前回の経験では被チェック数どおりにそもそも人が来なかったし、入稿時点では前回と同じだからまあ当日最後まで粘って100はけるかはけないか、今後イベント出れるかどうかわからないから前回みたいに複数イベント考慮で多めという戦略は取れない、ということで100部にしたわけですが、完全に裏目った形になりました。

というわけで当日中に電子版を用意して投下することにしました:

cryptic-command.booth.pm

cryptic-command.booth.pm

「開発手法」

  • 組版: LaTeX(厳密にはLuaLaTeX)。今回からlatexmkではなくllmkを使用したり、前回のComputer Science Head-Start Guideから継続でjlreqを使ってたりとかLaTeX面ではいろいろあるんですが、正直これは「技術同人誌を書こう!LaTeX編」を書いて、と三木里さんに圧かけてるのでそのうち解説していただけるものと期待してる。私は正直よくわかってない。
  • チーム開発関係: 当然のごとくKeybase、よって当然のごとく暗号化Gitレポジトリ。章ごとに分けての執筆だったのでconflictとかはそこまで気にならなかったのですが、極稀にtypo fixとか組版上の修正とかでconflictすることはありました。暗号化Pijulレポジトリはよ!!!11
    • KeybaseのチームをLarge Teamにしました。つまりCryptic Commandチーム以下に#general#randomというチャンネルがあるようになりました。これによって執筆やサークル運営に関係のあるものは通知が来てそうでないどうでもいいネタは通知が来なくなりました。最初はスマブラの話をしてたり、途中ではノーデュアランターボデプスの話をしてたり、だいたい後の方では幻宴Projectの話をしたりしてました。仕方ないね、全員楽器やってるし幻宴Project乗ってるんだもん。

そういえば開発手法とは関係なくGitのコミットログが面白いことになった結果が以下です:

これはたまたま全員が奥付を編集しているタイミングで奇跡的に発生したわけですが、「とりあえず自己紹介に音ゲーの実力書くか」→私はLv17フォルダ埋めって書いて→「ORCA未クリアじゃね」とツッコミが入る→そのコミットメッセージが「do never forgive @cametek」(かめりあを絶対に許すな)→そしたら三木里さんがその日に後光或帝になった、の結果です。

執筆の経過

…やっぱり駄目じゃねーか!!!今回はW3Cの用事と執筆が重ならなかったにせよ、どうせ有給消化期間あるしいけるやろーって思って書くのを遅らせたのがよくない。一方で、3月中にネタが発生したり3月に出た記事が執筆に際して役に立ったりなど結果オーライな部分もあった。

で4/2に入稿したところ、4/3には原稿チェックOK、4/5には発送しましたのメールが来て、そうしたらラブライブ!のアニメ公式サイトのドメインが乗っ取られてさらなるネタ供給が起こってしまいましてペーパー追加に至ります…。

当日のいろいろ

  • 見本誌相当の予備部を会社に置き忘れたので設営するための道具を三木里さんに引き継いで会場を後にしてオフィスに向かったところ全館停電だったのでセキュリティエリアに入れず結局Dark Depths of SMTPの物理見本を用意できなかった。会社で宣伝するために物理見本を置いてたのが裏目った感じですね。Dark Depths of SMTPに興味を持ってる方もそれなりにいたので惜しいことをした。
  • そうしたら開始直後の売れ方のペースが前回・前々回よりもはるかに早かった。過去の感じだったら余裕だろうと思っていたのが完全に裏目った形になってしまった。
  • 呼び込みについて。「さきの技術書典でDNSをはじめられたみなさーん!」っていうフレーズを唐突に思いついて、さらに脱稿後に降ってきたニュースであったラブライブ!アニメ公式サイトのドメイン乗っ取り事件について解説したペーパーについて呼び込みに入れたらこれが好評だった。DNSをはじめられたみなさんで反応してる人も多かったし、やっぱり相当数の人がDNSはじめてるんじゃねーか!!これは後になって思いついたやつだけど「インターネットの検閲は好きですか???」とか「政府や某出版社の検閲に喧嘩売ってるので絶対商業で出せません!」とかの殺し文句が使えたら面白かった…のだがそれを思いついた頃には物理版がなくなっていた。
  • 一方でComputer Science Head-Start Guideについて呼び込みが消極的だったのは確かにあるが、これは技術書典だと客層が違いすぎるため(すでに何らかの形で「技術」を始めてる人が多いし中高生がそんなにいない)。「周りの本が難しすぎる!という方でも安心です!」というまでは割とよかったのだけど、やっぱり内容的に客層が違いすぎるよね…。
  • 電子見本を出すのはよいにしてもGPD Pocketの画面ちっちゃい。タブレット端末で提示するほうが正攻法ですね。
  • かんたん前払いは今回初導入したがこれはかなり便利。頒布価格が600円とかお釣り発生するとしんどい価格設定だったのですが、かんたん前払いのおかげでお釣り問題はだいぶ緩和された印象があります。あと財布が緩まってるところにかんたん前払い使えませんってなるとちょっと抵抗感感じさせてしまうと思うので対応してたほうが販促面でも有利に思えました。
    • 一方で、もうちょっと集計簡単になってほしいなあ…。どれが何部売れた、合計いくら分売れた、っていうのは手計算じゃなくてプログラム的に計算できててほしい。

ここからは技術書典とは関係のない話です。

あとがきに書いてあるDJ Rewindのこと

いくら前からネタを温めていたとはいえ、DNSの本という「一家言ある人が多く下手なことを書くと容易にマサカリが飛びうるトピック」かつ「昨年偉大な先人が同人そして商業で大ヒット本を出しているトピック」にわざわざ今回の技術書典シーズンに突っ込んだ理由として、あとがきに「私の近い友人であるDJ RewindことMichael Hey氏が昨年亡くなったこと」を挙げてましたがその補足を少々。

彼は私が小学校時代にアメリカにいたときの友人で、ポケモンDanceDanceRevolution・Magic: the Gatheringをはじめ共通の趣味が多かったことからよく一緒に遊ぶようになり、既にインターネットに慣れ親しんでいた彼からそれらのオンラインコミュニティを紹介してもらい私自身もWebページを作ってコミュニティに参加するようになりました。私がプログラミングを始めたのはWebサイトで掲示板を動かすためにPerlCGIを勉強し始めてからなので、こうやってインターネットを知ってなかったら間違いなくコンピュータの道に進むことなどなかったでしょう。また、日本に住んでいないという「オタク」としては巨大なハンデを背負っていながら、日本の同人音楽シーンや同人ゲームシーンを教えてもらったのは彼からでした。MagicやDDRの競技的な世界に触れることになったのも同様に彼の影響でした。

アメリカの音ゲーコミュニティにおける彼の功績について言えば、DDR EXTREME時代に伝説道のインターネットランキングで同じホームのVer2氏(確か1桁順位)と共にランク入り(27位)したところまでは知っていましたが、その後DJMAX TECHNIKA 2でアメリカ全一をしばらく維持していたというのはfungah氏のTweetで知ることになります。

カリフォルニアの音ゲーコミュニティやスマブラコミュニティに大きな足跡を残していたことは以下のSpiritsnare氏のTweetスレッドでまとめられている通りです。

以下が訃報を知ってからの私のtweet。「このスレッド」で言及してるのはfungah氏の上記のスレッド。

途中に書いていますが、対人競技ゲームにおけるゲーマーとしてのあるべき姿、ゲーマーコミュニティにおけるあるべき姿を示してくれたこと、どのようにメタゲームを捉えるべきか、どのようにゲームを練習するべきか、の考え方について、多くのことを学んだと思っています。eスポーツなんていう言葉がなかった頃に競技的にゲームをやり続けるために、積極的に情報収集をし、コミュニティを育て、ひいては生活のあり方自体も全力で調整していたことを考えると、それはまさに自由とその責任を体現する生き方だったのではないか、と私には映っています。

10/19はMAX 360がアーケード版DanceDanceRevolution Aに登場した日でした。DDR EXTREME当時中学生だった我々はStepManiaで多くのMAXシリーズのリミックス曲を遊んでいました。当然その曲名の数字に大きな値を代入して遊ぶこともしていました。MAX 360なんていう曲が公式に登場しようとは、当時の我々だったら面白おかしく笑い飛ばしたことでしょう。そのMAX 360の登場自体を知ることもなく、またその最高難度の譜面を当日にクリアできるようになったことを知らせることもできないまま、彼はこの世を去ってしまいました。

あとがきに書いていない転職の経緯、インターネットの自由について思うこと

そうしてこの話に繋がります。昨年は3度のW3Cのイベントでの出張を経験し標準化活動に大きく関わるようになったなど、表向きには*1辞める理由など全くないような活動をしていたわけです。それがTPAC*2帰国後に突然あるTweetで「セキュリティ・暗号技術と標準化活動」という記述のあるポジションの募集が出ていることを知ってしまい、気づいたら応募していました。こんな「わかりやすい」ポジションが出てることなんてそうそうない、と。折しも先の件で「中途半端な生き方をしていてはいけない」と考えていた時期です。

また、W3C Workshop for Permissions and User Consentでとても印象に残っていた発言があって、ある参加者が「この部屋での議論のあり方が西洋民主主義の運命を左右するかもしれない」というふうに言っていました。極論ではあるものの、インターネットにおけるプライバシーというのは民主主義を成立させる非常に大きなビルディングブロックであり、プライバシーが危機に瀕している今それに手を打てる人が議論を尽くさず手を打たないならば民主主義は破局を迎えてしまう、という強い危機感を感じる発言でした。その現場にいながら、唯一の日本人でありアジア人参加者も限られている中で、何も積極的な思想表明ができなかったことは非常に悔しく、会を終えて「思想的敗戦を喫した」と感じました。

そうして、応募書類には、自由なインターネットが私を育ててくれた、暗号技術とインターネット技術の標準化活動を通して、自由なインターネットに貢献し恩返しをしたい、という旨の内容を書きました。

今回の技術書典のDNSDNS Resolutionはインターネットの検閲とその対策という技術トピックを通して、インターネットの自由について多くの人に知ってほしい・考えてほしい、という目的で書きました。「手の内見せてみろ、政府よ!(Show me your moves, Government!)」とインターネットに対する「攻撃」を告発し、「Why do you need freedom on the Internet? Because...」と締めたのも、もしかしたら"Period"を迎えるかもしれない自由なインターネットに対して働きかけをすることで「ピリオドを超えて」いかなければならない*3、という思いからです。

現所属についてはこの記事では明らかにしませんが、現所属のブログで発表することや現所属の名義で出すパブリックな活動を通して明らかにしていこうと思います。The Jeskai Wayの生き方を実践すべく、多くを語らず、ことを為すことによって自ずと語られることを目指していきましょう。

*1:「表向きには」ということは若干思うことはあったわけですがまあ大人なのでシラフで話す気はないのでそのへんは酒でも飲ませて聞き出してください

*2:過去記事見ればわかるとおり、時系列としては10/21にTPACに向けて出発する、というタイミングで上記の出来事が起こっています

*3:このへんはDDR2014とかDDR Aをよく知ってないと通じにくい背景があるのですが、MAX.(period)Over The "Period"あたりのニコ百がわかりやすいです。またShow me your movesの最後はOver The "Period"の冒頭からの引用です